想い出の刺繍屋

説明

「ルークの約束」

父の仕事で幼少期の生活は海外ばかりだった。そんな生活は思っていたよりも孤独だった。文化の違い、言葉の壁、誰かと打ち解けたいのに、どう話しかければいいのかわからない。

それでもイギリスで仲良くしてくれたダニエルのことは今でも覚えています。

特にチェスが得意だったわけではない。でも、誰かと並んで座り、同じ盤面を見つめる時間が心地よかった。

帰国の日、空港でダニエルはポケットから小さなものを取り出し、僕の手のひらにそっと置いた。

それが、ルークの駒だった。

「お前に似てると思ってさ」

「どこにいても、本当の君らしくまっすぐ進めよ」

それから何年経っても、ルークの駒は僕の手元にある。迷ったとき、不安になったとき、それを手のひらで転がしてみる。